「おわらない物語 アビバの場合」(2004) - Palindromes アメリカ [映画]
監督: トッド・ソロンズ
出演: エレン・バーキン、ジェニファー・ジェイソン・リー、マシュー・フェイバー
★★★★★★
また素晴らしい映画を発掘してしまいました!
知らずに居ましたよ、この監督。
トッド・ソロンズ。
彼の他の作品も全て観なければ!
「子供のころ、子供がほしかった。」
溢れんばかりの毒を盛った可愛らしく残酷なおとぎ話です。
そして、全編に流れるカーディガンズのニーナが囁く子守唄。
私としては、未だに少女であった自身の続きであるという自負があるため、大人になってしまった今でも、懐かしき少女の異様さ、感受性の尖端を仄めかされますと、失った少女の日々の暗い魔法の世界を思い出してしまい、このような映画には無条件降伏してしまうのです。
私の大のお気に入り、ロバート・アルトマンの「三人の女」に続き、オッサン監督にこれほどまで細やかに少女の感性が描けるというのは不可思議です。
しかし、この映画では少女の心の裏の暗黒というよりは、むしろ純粋無垢なままに持てるものを差し出すしかない少女の、現実世界との必ずしも清く尊くない対決の様を描いています。
少女が胸に温める愛情、憧れと、パックリ開いた現実との赤い断層とが物哀しく美しいファンタジーで彩られているのです。
先日、暴露致しました私の映画製作への(挫折した?)夢ですが、私が撮るとしたらこんな映画が撮りたいと心から思いました。
政治的なアイロニーが、残酷の国のアリス、アビバの彷徨う現実世界の刃のひとつとして極端な形で描かれています。
中絶反対運動者の少々ヒステリックで過剰な行動を皮肉っているのです。
行き場を失ったアビバがたどり着く、無償の愛の家。
これがまた、偽善と狂信とフリークスの世界を彷彿とさせるおとぎの国。
アメリカ中部および南部は「ジーザスランド」または「テキサス合衆国」(テキサスはブッシュの出身地。ブッシュの弟が州知事のお膝元)と呼ばれ、サンフランシスコ、ロサンジェルス、ニューヨーク、シカゴなどの近代的大都市圏を擁するカリフォルニア州、ニューヨーク州、イリノイ州など19州を文化・思想的類似点のあるカナダと併せ「カナダ合衆国」として分断し、独立しようというジョークがあります。
※「ジーサスランド・マップ」については こちら を参照
ジーザスランドの民衆は、あくまでも傾向としての話ですが、比較的低学歴でかつ、盲目的なカトリック信仰、強烈な愛国心を持っているとされます。
主にカトリック的モラルによりブッシュの中絶、同性愛者の結婚、遺伝子操作研究反対政策に賛同しています。(しかしブッシュは死刑執行と銃所持は譲れないらしい)
さらに厳格なカトリック教徒には、中絶どころか子孫を作る目的以外でのセックスはあり得ませんから、コンドームの存在自体が神の意思に沿わないとして、反対しているのです。
現に、アフリカ諸国におけるエイズの母子感染による小児への蔓延、望まない妊娠、インドなどにおける人口調節の問題に対して、カトリック団体は避妊具反対キャンペーンを行い、NGOによる後進国での避妊具配布に圧力を掛けています。
ですから、映画中に出て来る狂信的な中絶反対団体の様子も、あながち誇張ばかりでもないわけですね。
そして、ダブルキャストならぬ、8×キャスト!
ルイス・ブニュエルの「欲望のあいまいな対象」では、コンチータという名の女が二人の女優によって演じ分けられており、彼女のつかみ所のなさ、対象の曖昧さが素晴らしく引き立っておりました。
うっかり者の私は、最終カットまでこの二人が別人であったことに気が付かなかったのですが、この「おわらない物語」では、見逃しようがありませんよ。
何しろ、アビバは各チャプター毎に顔立ちはおろか体系、年齢、人種、性別まで飛び越えてメタモルフォーゼしていますから。
難解だとかキャスティングの構想の奇抜さが無意味だなどという批評を読みましたが、監督がインタビューで話している通り、これはシンプルな家族の物語。
私には何の抵抗もなくこの8人が同一人物の感性を持つアビバであることが受け容れられました。
自己と幸せを見出そうとこの残酷な世界で生き続ける小さき人のお話です。
しかし、アメリカで子育てするのは怖いね。
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